師匠との出会い

私、鈴木学にとって、サックスサクソフォン)演奏自体について、明確にこの人が師匠だといえる人はいません。もちろん様々な先輩奏者から、色々と助言はいただきましたが、基本的に独学で演奏技術を身に着けました。

しかし、音楽そのもの、ジャズそのものについては、師匠から伝授していただきました。師匠はジャズギタリストです。ご自身でジャズのお店を持っていらしたので、私は20代の頃、そのお店で8年間ほど丁稚奉公のように働き、師匠のバンドで長年、コチラに関してはつい数年前まで、一緒に演奏することで実に多くのことを学びました。

師匠からいただいたもの

とは言うものの、師匠から教えていただいたことを、何か具体的に思い出せるものは、実はそれほどありません。しかし、音楽、ジャズに取り組むうえでの「哲学」、これをしっかりと叩き込まれたように思います。それは今の私にとって、何よりも有り難く、大切な財産です。師匠が叩き込んでくれた「哲学」が、今、そしてこれからも私が演奏を続ける大本となっていることは疑いようがありません。師匠に対しては、本当に深く感謝しています。

決して妥協することなく、音楽、ジャズ、楽器演奏の本質について思考し、それを更に深く深く掘り下げる、その姿勢を教えて下さりました。加えて、芸術家としての在り方音楽に取り組む人間としての矜持ジャズメンとしての品格・・、教則本やネット情報からでは決して得られない、大変に貴重な数々を、師匠と弟子という関係の中で伝授してくださりました。

緊張の初対面

師匠と初めてお会いした日のことは今も鮮明に憶えています。当時、大学のサークル内で一緒にジャズバンド演奏をしていた、ギターを弾く先輩が、師匠に個人レッスンを受けていた関係で、紹介していただいたのです。

師匠は当時、レニートリスターノのクールジャズに深く傾倒し(詳しくは私の書いたブログを参考にしてください)、毎週水曜日に自らの店のスペースを使い、他の楽器のメンバーを集め、ワークショップ形式で探求を重ねていました。師匠の弟子であった先輩も、クールジャズにのめり込み、その流れで私もクールテナーの巨人、ウォーン・マーシュの演奏に深く傾倒していました。

「傾倒」なんて書くと格好つけすぎですね。ありていに言えば「モノマネ」していたのです。先輩に連れられ、水曜日に師匠の店に赴き、初めに発した言葉は今も鮮明に覚えています。「鈴木です。宜しくお願いします」、なんてことはない一言ですが、これが私のジャズ人生の、本当のスタートでした。

24時間練習しろ!

もちろん、挨拶だけで終わるはずもなく、早速「バンドに加わって一曲吹いてみろ」という話になり、普段練習していた「ウォーン・マーシュ風」に、テナーサックスを演奏しました。すると初めは緊張しすぎて気づかなかったのですが、どうも師匠とバンドのメンバーが笑いをこらえている様子・・。一曲演奏を終えると、メンバー一同大爆笑となりました。

今になるとそれも理解できます。メンバー全員で真剣に研究していたクールジャズの奏者、マーシュのモノマネをする若造が、突然目の前に現れたのです。私はもちろん即興のラインを演奏していたのですが、ジャズの理論などまだほとんど理解せず、根本的にはとことん未熟なプレイの上に、ただマーシュの演奏の雰囲気だけをモノマネしていたのです。

恐らく、コ○ッケの物まね芸みたいに聞こえたことでしょう。しかも、マーシュは大変に特徴的なプレイをする奏者でしたから、尚更その特徴をマネていたのが可笑しかったのでしょうね。ちなみにマーシュはこんな奏者です。

全体の音色、特に高音域の表現が独特な上に、映像を見ると妙にアゴをもぐもぐと動かしています。当時の私は、ビデオテープ(!)を入手した上で擦り切れるほど繰り返し映像を見て、このアゴの動きまでマネしていましたが・・汗。

メンバー一同大爆笑の後、師匠から「おまえ、面白いから練習に参加しろ。俺たちは毎週やっているが、お前は二週間に一度来い。二週に一度必ず上手くなった演奏を聞かせろ」とのお言葉をいただきました。続けて「そのためには一日24時間練習するんだ!24時間練習するものとして、仕方ないからそこから、寝る時間、飯を食う時間を引くんだ!」と言われ、内心「ヒェ~」と怯みつつ、練習への参加が認められたことが嬉しくもあった私は、力強く「分かりました。頑張ります!宜しくお願いします!」と答えました。思えばこれが、長い苦闘の道のりの始まりだったのです・・

(次回に続く)