サックスのプロになる!③

前回のブログでは、私、鈴木学サックス(サクソフォン)プレイヤーとして、プロの現場に上がり始めた頃のエピソードをご紹介しました。今回はジャズプレイヤーとしてのデビューについて・・

ジャズビッグバンドへの参加依頼

繰り返しになりますが、私の大学生時代、4年生(5回生?)の頃はバブル絶頂期でした。空前の好景気のおかげで、ジャズバンドのニーズも多く、慢性的な人手不足でした。というわけで、まだ大学生だった私の下にも、知り合いだったジャズサックス奏者を通じて、臨時編成のジャズビッグバンド演奏の依頼が来ました。

詳しく話を聞くと、まずリーダーはこの地方を代表するベテラン、全国的にも名が知られた名人、サックスプレイヤーであること、そして、ケーブルテレビの開局イベントである事、つまりテレビ放送がある事が分かりました。当時の私は若造ですから、それがどういう事を意味するのか、あまりピンと来ておらず、若干怯みつつも依頼を請けました。

プロのジャズバンドはすごい!

大きなイベントで演奏するということで、何回かのリハーサルスケジュールが設定されました(全くリハーサルしないバンドも多々あります)。初めてリハ現場に入り、集まったメンバーの音を聴いて、心から衝撃を受けました。そりゃあそうです!初めてのプロのジャズビッグバンド、周りはプロのキャリアが長い奏者ばかり・・。学生ビッグバンドレベルの音しか知らなかった私にとって大きな衝撃でした。

特に、リーダーの名人のリードアルト(サックスセクションで主に主旋律を演奏するパート)演奏は衝撃的でした。それまで自分が経験していた学生バンド的「譜面どおり」の演奏とは明らかに違いました。歌いまわしが自由でダイナミック、そして素直にカッコいい感じがしたのです。

そして更に驚いたのが、ゲストで参加した某国出身の女性ボーカリストの歌声です。ビッグバンドの轟音の中で発した彼女の第一声は、まさに衝撃でした。バンドの音に全く負けていなかったのです。後に分かったのですが、実は彼女はジャズボーカル界、指折りの声量のある歌手だったのです。それでもやはり、プロの歌手ってすごいなあと、当時は感激しました。彼女は今も東京の第一線の現場で歌っていて、数年前にタマタマ歌声を聞いたのですが、往年のパワーに加えて今では円熟味も加わり、感動的な歌を歌っていました。

いきなりテレビ撮り!

数回のリハを経て、いよいよ本番当日となりました。屋外に特設ステージが組まれ、テレビカメラが並んでいます。これだけでも十分に怯んだのですが、当日のサウンドチェックが始まると、他の出演者の顔ぶれの豪華さに、このイベントの位置づけが理解できてきました。

日本ジャズテナー界の至宝、宮沢昭さん、今も活躍されている名トランぺッター、日野皓正さんの実弟にして、名ドラマー、日野元彦さん、今はお亡くなりになった大御所から、現在も第一線で活躍する、日本ジャズ界を代表するオールスターがずらりと顔を並べた様子に、こりゃあ場違いなところに来てしまったと、縮みあがってしまいました。

まあそれでも、いざステージに上がれば、もう演奏するしかありません。そして、前向きに考えれば、ジャズのデビュー戦からこんなに素晴らしいステージに上がれるなんて、幸福と言うしかありません。開き直って思い切り自分を表現しようと頑張って演奏しました。

その結果は・・、まあそれほどひどいソロもなかったし、バンドを首にならなかったし(このバンドでもう一回、ライブハウスに出演しました)、何より楽しかったので結果オーライかと思います!

現場で得られるもの

このバンドに参加できたことは、本当貴重な体験になりました。まず、リハの間に先輩方からいろいろと教えていただきました。ジャズバンドでは、表現上、少々の譜面からの逸脱は許されること、そして、ソリ演奏(サックスセクションの合奏)の際、音の終わりを整える大切さ、ビッグバンドと言えども即興的にバックリフを付け加えたり、即興性を活かす演奏が可能であること、等々・・、プロの現場で伝えていただいた日本ジャズ界の伝統は、今も私の音楽観の中にしっかりと残っています。

何より、この濃厚かつ緊張感の高いステージ経験がありがたかったのは、いきなり大きいステージを体験できたことで、後に怖いものが無くなった(?)ことです。この後、ジャズの現場、バンドマンの現場で、次々と初挑戦の音楽、状況に挑んでいくことになるのですが、この経験のおかげで全くと言っていいほど怯むことなく挑戦を続けることができました。なんでも「まあやってみよう!」というスピリッツで挑むことができたのは、まちがいなくこの経験のおかげだと思うのです。

とはいえ、当時の私が音楽的に(人間的にも?)未熟であったことは間違いありません。まだまだ修行は続くのですが、次回は、私の人生を決定づけた、ジャズの師匠との出会いについて書きたいと思います。今回も最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。(次回に続く